神経質なゆびさきが
落ちる八十八の鍵
天井を壁を床を這い
まるで相対観念哲学
ぐわんぐわんと響き渡って
頭にブラックホールを開ける
流水のシフォンを重ねるばかりの
傷つきやすい青年よ
ウェルテルだとか、ブラァムス然と
死んでもわたしを酔わせるつもり
今夜が終末日和なら
お許し賜える演目は
共鳴曲しかないのだって
さっさと受け入れてしまえばいいのよ
アメジスト色の景色の中に、悲しみの巨木がいた。
その足はもう朽ちて、中はくうどうになり、あの人の薔薇をとりにいくことはできなくなってしまった。
巨木は泣きに泣いて、いつしかその大きな体を、そばの崖にもたれさせ、小さくなって、座り込んでしまった。
おばあさんは私にその方向はよろしい、と言った。
然らば私は旅立って、崖を登り始めた。
空は明瞭にはれわたり、澄んだ世界を持っていた。
薔薇は小さな青いむらさきだった。もう白ざめてしまっていた。
それはまるで病弱な若い女のようだった。
彼女の根を掘り、その根の一つを四つに割って、巨木の足元の土に埋めた。
するとそこに、小さなかわいい白い薔薇が、ほんのいくつか咲いた。
巨木は私を見下ろした。
青く白ざめたむらさきの薔薇は、ずっと昔、たしかに私の大切なものだった。
ふしぎな森にいた。葉は虹色だった。地面は粉砂糖を振りまいたみたいにきらきらしている。美しい珊瑚でいろをつけたみたいな空がぼくにおじぎをする。彼方からの風は綿菓子の匂いだ。こまどりが素晴らしい歌をかなでたのでぼくはお礼にはちみつを塗った焼きリンゴをやった。こまどりはぼくをウソつき呼ばわりして腹立たしげに去ってゆく。ぼくはさっきからいやに愉快だった。なぜならいつもぼくをいじめる隣のガストンを、今朝はす向かいに住む死神がとっちめてくれたからだ。その流れでぼくもちょっと痛い目を見たが、まぁそんなことはどうだっていいんだ。——けれどそれを思い出した瞬間に、はっと息を呑む。爪先がきんと痛む、見れば革靴に泥水がしみ込んでいる。あたりはいつの間にか水浸しの沼地に変貌している。粉砂糖だったものは、今や肥だめみたいになり、空はにび色に染まっている。木葉は気味の悪い顔がついたぼろ布みたいだ。けたけたと笑っている——けたけたと笑っている! ぼくはとっさにきびすを返し、無我夢中で逃げた。ぼくを置いて逃げた。——ああぼくはなんて臆病者なんだ!!!
見えざる者のささめごと
おしゃべり者のあだごころ
「よい、よい。選ばずともよいよ」
枝葉分かれた2つの道は
悪魔が生んだまぼろしだから
進みゆく者愚かなら
歩まずとも また愚か者
細の微動も重労働で
我が腰は だって なまり玉
ならば自動の歩道の上で
あぐらをかいて待ちようぞ
君のミーティアに始まりを見る
双子の宮の向こう側
我が魂が泣くところ
喉に詰まった言葉のジャムで
濃紺色のぐずぐずで
世界の瞳を潰したい
幸福という絶頂で
我がメフィストを舐めまわし
愚かな生に浸りたい
そんな私のかわいい夢に
指揮棒を下ろす
君のミーティア
白砂をさらう、たぷたぷの
カイアを孕んだ
我がマリア
多分全ての始まりで
全てがそこで朽ちてゆく
空では太陽とキスするために
月がゼウスに懇願してる
鮮やかビスカで編んだ冠
ふと見えたのは君の残り香
引き潮のワルツを踊る貝たち
孤高に立った青白パラソル
オランジュに光る宝箱
パノラマ記憶が綻んで
熟れたみのりがからまって
波間にbonheur(ボノフ)を垣間見た
そんなひとつの想い出は
未来の砂漠で果てているのね
ばらりと はじける ビー玉みたく
かつんと ぶつかる わたしの小指
ちぎれた 爪の ゆくさきは
まつ赤な いちごの ジヤムのなか
ぷくぷく、ぺたん ふかふかの
ホツトケーキに ころがつて
現と いふ名の ゆめを見る
すべては、
くびながき ゾウの飛ぶ、
空の まにまに…
海音に落ちたら何色の
未知にうなされ続けるだろう
セシルのあの日の残酷に
共感という敬意を表し
愚かな若き憂うつも
アバンチュールを口実に
耽溺したまま息を飲む
傲慢は罪悪かしら
なんて
口にしている自分が好きよ
milk-shake色の幾何学的階段の前で、
フロマージュ色の少年が手を差し出した。
ようこそ、そして さよなら
子どもじみた甘ったるい香りにくらくらしながら、
覚悟を決めて、最初の一歩を踏み出す。
上がって、下がって、右左。
宙に浮いた立方体の上を渡って、
あっちの階段に飛びうつる。
少年の話は一興だった、優雅な語り口でもって、仏軍の槍より鋭くこの世界への皮肉を吐き出す。
わたしは彼のことが好きになってしまった、いつかいっしょに寝たい、と思う。
けれど5904階を過ぎたあたりから、彼の目元が溶け出してきた、だんだんだれかに似てくる気がする。
何はともあれ、とてもおいしそうだ。
そこへ飛んできたアポロンが、わたしをばかにして、いきなりその御光を強めたので、
少年はどろりと溶けてしまった。
完全にはちみつになってしまう前に、彼はあらんかぎりの言葉でわたしへの呪詛を吐き出した。
それを尻目にわたしはイングランド式ブレックファストのマフィンをぺろり、平らげる。
己が根源の死を望む
この悪しき心の内に
芽吹けよ
命を以て君を愛んだ
はかなき純麗の魂よ
青い眸を覗いてみれば
終わりの原が現れる
やわい果実を踏み潰すよに
高くから顛落る小鳥みたいに
まどやかな輪環に果てる
眠るように
耳を澄ます
どこからか ややの細き声
その先に見える、あれは、
むかし私が失くした願い。
君が呉れた祈り。
いなづま 駆けてく
まっすぐ そらまで
プルシャンに散る星々が
燃え死ぬまでは
笑っていよう
(涙はしまって)
するどいひかり
消える世界
落ちゆく神々の かけら……
"断ち切れるものなら"と
たれかが云った
諦念が産み落とした
好戦のせん妄オペラ
小銃を抜けば幕開く
金の集まる暗き舞台
銀が作りし破滅の宴
さらば当劇始まりは
軍靴でならす蝶の舞
蝶のごとくは人の影
舞台装置は順風上々
響く銃声、爆発轟音
観念致せば情状酌量
皆も知ってる名優が
七色テナーの叫び声
死に際麗し叫喚地獄
この芳香は何れから
小首かしげる鈍い我
愛が血色と相成れば
真は一つも有はせん
黄金は悪徳の証ゆえ
俳もお客も地獄待ち
!
世界樹が、バルコンを
おおいつくした。
枝がのび、のうみその、いちばんやわいとこを
なでる。
しゃらんしゃらん と、
かあいい音がする。
神は石ころであった。
それはわたしの世界である。
「あー……
これが、世界のことわり。
これが、世界のことわりなのね
これが、世界の…
…ねぇ、聞いているの?
ねぇってば!!」
猫は、そしらぬ顔で寝ている。
女神がわたしの脳みそを
ぶわりと開いていくまでは
わたしはひとり陽だまりで
春待つ小鳥のうたをうたおう
天呼び笛はきっとそこに
脳みそからこぼれたビー玉に
わたしは世界を見るのです
あめがふっていた
わたしはおへやのなか
ガラスについた星々を見てた
たくさんの世界を旅した
ときどき死んだ
何度か殺した
たすけたり、たすけられたりした
愛したひとは
みんなころした
「この物語はおしまいです。」
勇気いりのミルクティー
シナモンの香り
マッドハッターの罠
さいごに、うみのなかに住んでるわたしとお話した
わたしはたくさんのことを知っていて、でもなにも知らなかった
シェルピンクだけのハミングバード
もうじき羽化する
「さいきん雨がすくないね」
洗濯物を取り込む
おかあさんの声
世界は雨粒。
あかいいろ ぽつりと
こんいろに おちた
あかいいろ じわりと
みずいろを つたう
ふわふわと とびかう
いのちの なまえ
きみのいろ ぽとりと
しろいろに 咲いた
ぼくは がしりと
そのてをつかみ
はらはらと ゆきかう
いのち ねいろ
ひがんを みふねに
のせたなら
ひがんをたどれ
まこといろ
かげろう ゆらめく
翡翠のうえで
アルファベットが 踊る夜
まどろむ視界の ゆき先は?
解放の予感 たじろく悪夢
天国と浄土の ていじろ で
結んだ小指を絡めては 離す
いたずらな時の終わりまで
君はどこまで 居てくれる
星の生まれる泉にひたり
波押されるよに たたずんで
朽ち果てるまで 眠ってたいのに
灼熱た素肌を導くロバが
「好きになさい、」と
やさしく 言った。
秋の朗月 澄み昇り
我が風懐を ぱきりと照らす
蒼き小室は 豁然と
悟り覚りて 意を決し
万事 満持し 満を引く
自然 頬緩む
秋の夜長よ
東京湾の風は塩っぽく乾いていた
冷たい石のうえに乗っかって 君と昨日のことを話した
好きじゃなくてもいいよ と笑う
いますぐ君と魚になれたら
むずかしいことは全部 忘れられるのになあ
君は困った顔をして、カーディガンの袖を引っ張る
溶けだしてしまいそうだ、と思った
飴のみずたまりに飛び込んだみたいに、君に夢中だった
十八の君は、はたちの僕と恋をしていた
中也が死んで夏が去り、
秋がやぶれ、
チャコールの冬が顔をだす…
夏は破滅の季節だ
たとえば猛暑の日の苛辣なる日ざしのもとに置いた果実みたよな【それ】を、われわれは求めてしまう
鼻をつく無数の死、
息がつまる無情のそれも、
夏がよく似合う
そうしてすべてがらんえしたところで、
穏やかな秋がやってくる
秋、もうすべてが終わったのだと
まざまざとわれわれにそれを示す
"nothing"を掻き抱きながら、
われわれは、力なくその意味を問う
風は答えぬ
むなしさは、冬へ誘うが、
それはまだ先の話。
よに散らふ
すべては きらぼし
おぞましき
あいも 苦虐も
罪なく
銀漢をかざり
てりめぐる
永劫かはらぬ
ひとの 条理
双子の弟が死んだから
その血と骨を
ネズの木の下にうめよう
マザーグースでも歌おうか?
それとも ランボーでも朗読する?
黒く細い枝は とても長く伸びるでしょう
そして私の首に ゆるゆると巻きついて
どこへ逃げようとも ちぎれない
わたしはくるしみ だけど 痛いほどの
快楽に酔いながら 年を老る
(それが ともに生きるということ)
彼はたとへば
水彩の
にじみのやうなひとでした
いえそれよりは
結霜の
ガラスごしに見た 景色のやうな
いえそれよりは
鏡のなかへ
たまにまぎれこむ 影みたやうな……
彼は さういふひとでした
そよ風は 世界をまはるでせう
とき同じくして わが胸の
ちいさなくぼみには、赤銅の
まあるい玉が 落ちました
それは いつまでも 冷たくて
ときおり こつん、と鳴りながら
きつとこれからも ひつそりと
ここに 在りつづけるのです
うんざりと
あたまをもたげえる
朝の水脈
伝わらぬことにつかれて、今日は
音なき世界の片すみで
蚕みたいに糸を吐き
変わらぬものに
疎きをたくす
退屈を纏う
もういちど 眠る
うすぐもりの 朝のこと
気づけば わたしの かたわらに
つばきの花の 妖精が
手のなるほうへと みちびかれ
コンクリートの道のうえ
白亜でかかれた 境界の
とびらを ぱっと
ひらいたら、
視界が 白く……
坤儀は、被照ていた。
僕は西日に向って歩行いている。
太陽はじりじりと僕の眼を射るようなのに、不思議と皆式痛くない。
人工の砂地は、僕の足に遠慮なく絡み憑く。
背負った剣がひどく重い。
昨日、鎮守の樹が打ち倒された。
この地は呑噬され、陵辱めの限りを尽くされるだろう。
——西日が血色に染まり始めている。
辰巳風に薙がれ病み切った雲壌に、新たな聖命は生まれない。
往昔より精霊宿し造化物はひとつ残らず呼吸を止めた。後は大地の膿と成るだけだ。
この地はもう二度と自ら花を咲かすことはない。
善は悪に蟲害まれ、その境界は失われる。
僕はそこでいったい何を守れるだろう?
しかし僕は、今すぐにでも、
背中から長槊で貫かれ、
この地に血反吐をぶちまけて死にたい。
かわい しろつめ
もぎとって
やさしく やさしく
あみこむの
かわい しろつめ
どこまでも
お臓のように
のばしてく
かわい しろつめ
ましろなら
くろにも あかにも
きれいにそまる
かわい しろつめ
おくびをかざろ
おわらぬチクルス
うたいましょ
かわい しろつめ
ぼとぼとぼと、と
花冠がおちて
まあたのし
かわい しろつめ
あなたも わたしも
すてきにかざろ
いっしょにおどろ
ゆるゆる ぽちゃん
うみのなか
まっくらがりより
くらいあお
もくもくもくと
しずんでく
とおざかってゆく
ひかりのなかで
かげえあそびと
かくれんぼして
あぶくのなかで
てをのばす
きみはしあわせ?
あたしには
すこしだけ かわいそうにみえる
からくりじかけの
さかなたち
かこも まぼろしも
ぱたぱたと
こまかく ちぎれてしまうから
(このよにつみがあるのなら
きっとこんなかたちをしてる)
からっぽのきみを
うめるうみ
くらいあおに
あたしもなりたい
チャイコフスキーみたように
飛んだり跳ねたり
弾けたりしたいわ
宇宙を照らす
花火みたよな
七色の夢に
やけどがしたい
でも、
ほんとうは
ねぼけ眼の
君みたように
甘いホイップクリームに
ぼふん と
うもれてみたいのよ
ひみつの呪文でつくったの
小さなかわいい反転ドーム
凪よりしずかな きんぴか色は
焼かれて硬く動かない
甘くて甘いきらきらの
舌をまどわす魔法の世界
透明色の魔法のさじで
しずかな海に 山をなす
茶色いマグマがとろとろと
果ての底からあふれ出し…
わたしは それを ぺろりとぜんぶ
神話みたいに 食べちゃうの
なめらか! だけど ざらり…としたわ
きっと秋の王が目覚めたせい
脳をとろかす午後の半夢
くたびれたわたしを うんと褒める
さざなみに
消ゆる
浮生も
行く末に
愛子ぞ居らば
そも幸ひかな
けふは地蔵さん
袖にぎり ふたり
よみせを 見てまはる
赤 青 黄色の あめだま 購って
瓦斯のぬくもり てらされて
セルの背なかを ながめてゐるの
らいねんも 来られたらいヽですね。
ゆびきり ひとつ
らいねんも さらいねんも、
亦いつしょにきませうね
ならんだ灯
あからむ ふたつ
ねこの門番に合言葉
「プラム オオムギ ユーチャリス
キベルネテス パラ・メタ・オルト」
重厚い水が
ひらかれたなら
真珠光沢の蝶がまい
おとぎの森が 指を鳴らす
「ようこそ おひさしぶりですね」
精霊が ひそひそ こそり
「さ! 基礎生産のじかんです」
「ヒトの概念は超越しましょ」
「エゴイストなのは 虫も君も僕も おなじさ」
ほうそく 真理も 脱ぎはらい
時辰儀の盤をぎゃくまわり
泣きながら笑い 笑いながら怒り
怒りながら歌い 歌いながら泣く
ここがちいさな匣だとしても
鎖につながれたとしても
ねこの門番はわたしの味方
楽園ひとりじめ すべてはわが手に!
オフィーリアの沈んでゐさうな
お池をながめてた
底に澱む 泥の茶に雑じる
まはり囲む木々の緑
たれもかれも
さわさわ さらさら 鳴いてた
水面に たれ知らず
描く 輪のしらべに
ちかづいて よくよく
目をこらしたら
あめんぼのふたりが
つう、と舞つてゐたので、
ふと、
なんだか わたしも
落ちて了ふかしら、と
こわくなつて、
いそいで おうちに
帰つてきたの
だけど……
わたし、
ほんとは まだ
あすこに立つたまヽかもしんない
わたし、置き忘れてきたかもしんない
わたし
オフィーリアの沈んでゐさうな
お池を
……
グリッターで飾る夜空
ピンク ブルー パープル
かわいいロゴで めくらまし
昨日の夜 映画で
スーパーカー サングラス
コケティッシュなアンナ
君と飲むカクテル
いつのまにかダウナー
でもかまわないの
メルト・メルト・メルト…
ときめきの魔法
シャンゼリゼ・きらきら
かがやきだけの セ・シ・ボン
君にもらったピアスは
似合わないって捨てちゃったの。
たとえば、
軽く焼いたぶどうパンのうえに
マーガリンをうすく塗って食べること
つめたい。
空がかげる
たれひとりいない町
夕焼け
錆色
すすきが泣いて
影法師だけが追いかけてくる
カンカン 遮断機
ランドセル
ともる灯
ちらぱら
窓あかり
よい香り
電信柱の陰にのがれて
泣く。
駆け出す
あきらめたのは
いらなかったからではなかった
散りばめられた 薄桃の
香りに迷う うぐいすの
声を懐に 忍ばせ秘めた
稀な望みと 分かっていても
淡い鈴音の 鳴るほうへ
憂いは過去の 苔ごろも
雲居の夢も うつつの世
要るものだけが この手の中に
私の中に 生まれた春の
言うもおろかな 美しきこと
私はいつしか 不幸せではなくなって
オリンピアの山々のすそ野の小さな煌星にも
ピクチャレスクな湖海にある雲の粒子にも
この声の切れ端を 届けることができるのです。
私はひとり
永遠なる海底で
眠り続けよう……。
雨が上がった 秘密の花園
散らしたすみれにくちづけを
岸辺でひとり 手まくらをして 恋を想う
"彼の好きな食べ物が知りたい"
ただやさしさだけ 夢見ているの
世界中 そうだったらいいの
君はおろかだと笑うかしら
でもいいの
それは君のいのちが
永遠につづくようにと
祈るのと同じこと
びんづめのレモン水に 落としたつけぶみ
オルゴールの針に 隠したこころ
もうすこしだけ読まないでいてね
あとすこしだけ気づかないでいてね
アホガニイのドアをノックするまで
あともうすこし 見えないままでいて
果実が熟してく匂いがする……
収穫の季節が ちかづいている
雨が上がった 秘密の花園
散らしたすみれにくちづけを
手まくらをして 恋を想う
かわいいものだけ
蒐めたのなら
毒になるのは
わかってるのに
君の胃袋の
奥まで埋めた
サファイヤが
薔薇の根をつたい
つま先までも
慄えるんでしょ?
食べちゃいたいな
ぎらぎらと
その歯茎まで
ソテーにして。
待ちぼうけていた日なたの午後に
赤いワインのうずに落ちる
« 戦争は止められないよ »
窓べでたたずむカマキリが言う
まどろんで
ぷかり浮かぶ夢の環
並ぶルマンド かわいい兵隊
降り出す雨はマルシュ
きみからの伝令
« でもあのこを救える »
雨粒 出発
行進
ひらく夢の環
「べつに肉感的である必要はないのよ」
と彼女は言った。
「ただ生命力を感じられれば」
彼女は首をふる。
「ううん、嘘。いやらしいくらいの記号的なものに惹かれちゃう。でも美くしいとは思わない」「骨は美くしいわ、なだらかで」「でもそこに生命は感じないじゃない。ヴァニティ・オブ・ヴァニティーズよ」もの言いたげにするぼくを無視して、彼女は喃々とつづける。「頭で考えることと体が感じることは、違うわ」「あるいは理想と現実、とも言える。いつだってそう。お菓子づくりも政治も、いっしょよ。そのせめぎあいよ」
言い切って彼女は、もうずいぶんに冷めてしまった珈琲を一口、喫んで、
「でも、何うだっていいわね」「だって、好いことだモン。なんにしたってサ。揺さぶられるのはサ」
ぼくはなぜか、『恋はいのちのエネルギィ』という言葉を思い出す。
彼女は我が意を得たりというふうに、ウンウン頷く。
「でもね直ぐ新らしいのが必要になっちゃうンだ」「消費しちゃうから、……」「基本的にはネ」
彼女はすっかり物倦じしたようでいて、どこか名残りおしげに、つぶやく。
意味もなく、カップのなかみをぐるぐると混ぜる。
紡ぎ合う
繋ぎ合う
偽り合う
指をからめ
終わらないごっこ遊び
警告は鳴らず
ほんとうのうそが踊る
青い影のいたずらに
惑わされ
背き合い
求め合う
足をからめ
なぞるのはおとぎ話
警告は鳴らず
でまかせのうそが並ぶ
青い影の優しさに
ほだされて
恨んでは
愛を吐く
私はもう死にました
今は深い深い鍾乳洞の奥底で
冷たい岩壁に包まれて
ぽとりぽとり落ちるしずくが奏でるノクターンに
耳を傾けながら
濃紺の闇が生み出す途方もない宇宙を旅し
メルヘン色の可愛いあぶくをぷくぷくと口から吐いては
あくびが出るような長い一瞬を
深い眠りで飾っているのです
こわい?
ふあん?
なら、ないてもいいよ
シャボン玉ぷかぷか
ういてるでしょ?
あれは、くじらの見たゆめの
まんげきょうよりふかく、ふかい
みずうみのなみだ…
かなしい?
なら、わらったらいいよ
うそつき。
きらい。
だいきらい。ってゆってよ
シャボン玉ぷかぷか
ういてるみたい
これは、愛のやまいだね
くゎくゎ……
ビターブラウンの音符に乗って
すみれの花咲く夜空を旅する
案内人は のっぽのうさぎ
はちみつ香る 航路のとちゅうで
ふと古い本を ひらいたら
知らないはずの メロディが
とびだし はじける
月が微笑う
セロファン窓の むこうでは
黒いダイヤとひよこの列が
エキゾチックに おどるので
わたしはきのこを頰ばって
すこし、まどろむ
着いたら 起こして。
銀白の
荒野にきみを
さがしてた
きみの名前も
知らないが
つめたく凍った
空気にあって
のこり香だけが
いまもなお
枯れた、銀貨のなる枝を
にぎりしめ
つたう赤き血が
なつかしいきみの
幻影を
絶えることなく
照らしてる
震え 屈し
消え果てそうになったとしても
きみがそこにいるかぎり
ぼくは息をするのを止めない
どこかで いつか
ほんとうに
出会えたのなら
手をにぎり
「ひさしぶりだ」と
言わせておくれ
critique塗りたくり
お砂糖まぶしたげるね
すきだってゆうから
ミルクでできた
蝶のよに
笑いこけて
死ぬの
あたしのキャラメルで
蹴飛ばしてあげるね
すきじゃないってゆう
いちじくジャムと
蛾のよに
ののしりあって
生きるの
ああ…それって
オリエンタリスム
ゆめは、ゆめ
なのにね
「ほんたう」は
めにはみえないのよ
さう姉さんが云つたから
僕はめをこらしたのだけれど
そこにはただ、一輪の曼珠沙華が
かぜにゆれてゐる許だつた
姉さんはその後直ぐに死んで
姉さんの睛
昏い昏い、
とこやみみたよな藍
えぐり抜いて
ポケツトに仕舞ひこんだ
「ほんたう」は
めにはみえないのよ
さう姉さんが云つたから
にじいろの
玻璃を透かして
のぞいてみれば
遠くのわたしが
さかさまで
糸をぷつりと
砕いてしまう。
空にうかんだ
みずうみみたく
夕焼けに溶ける
ハシバミのよに
きみの絵の具の
藍色で
うつろな過去を
埋めつくせたら…
無為にころがし
膿むだけの
わたしのこころ
にじいろの玻璃
はらはら ちらちら
きちがいの
風にふかれて
まいおどる
声もあたまも
うばわれた
したがうだけの
季節のけん属
うまれて、そして
消えるだけ
そのひと粒ずつ
手にとって
なでてあげよう
そして、殺そ
きのこ
きのこの
ハルモニア
アルチザンたちの
しっくい鍋
三角形の巻き貝ちゃん
ドゥブルヴェ
韻は陰と陽
シャンメリアの丘で
シャンパンにパン
きのこ
きのこの
春の庭
モセウ
こどもたちは元気よ
雪国に
ほころぶ
きみの
ふせた目に
おぼろげな
火の
ともるのを見た
あたわぬ
徒事を
かさねても
しるした日々は
真黒に燃えて
いつか尽きるのを
待ちながら
きみのおもかげを
いつまでも
胸内に追う
すべては 徒事
あの夏の日を覚えてますか?
強い日差しに焼かれた肌と
とめどなく落ちる汗
きみの歌声
永遠に
うつくしい瞬間だったこと
きみは知っていますか
抱き合ったきみの
Tシャツの熱さ
こぼれた笑み のぞく歯の
ひとつひとつまで愛しかったこと
きみは知っていますか
咲きほこるダリアのしたで
わたしたちは
風に揺れていた
つめのさきまで絡めても
けっして最後までは
わかり合えないこと
それがとてもさみしくて
だけどそれを知っていたから
わたしは
この日を永遠にきざもうとおもったのです
炭酸水がはじけて
すべて透明になっても
わたしたちは にくみあうことなんて
なかった
ほんとうは最後まで
つむいでいたいと願っていたこと
わたしはきっと忘れないでしょう
きみがわたしのために笑った
あの日
わたしは わたしのために泣きました
きみが わたしのために泣いてくれることを望みました
たくさんのことを望みました
それは
とろけたアイスクリームみたいな
熟れたパイナップルのような
青くむせかえる
かげろうのような
ある夏の日のことでした
深く 深く 深い
オーロラジャムの小びんに
目隠しで落ちる
午睡のように
ふわついて
さまよえば
詩人の恋が
生まれて 消える
……
遠い沙漠に
舞い降りた
菫の羽を
からりと揚げて
« それは私の、心ですから。 »
あなたは ゆった
« あぶくになるまで、
愛したら…… »
きっと、それでいいの。
間違いは、ないの。
あたしの遊星
マシマロの
まんまる船が
空を飛ぶ
ピアノブラックの
カーテンに
きらりら
星くず、曹達水
あの日見あげた
きみの睛に
臓物色の
ゆめを見た
一光年の
そのさきで
待ちぼうけしよ?
宇宙に かえろ。
コットンキャンディみたいね
ぷくり、ぷかり
夏の低気圧と
おわりの日のためいきを
クリームソーダに溶かして
ぴょんぴょんと
エラスティックな活動写真を
わたしとおどろうよ
びっくりするようなパラダイムシフト
ふたりだけのないしょにしようね
いっぱいのふうせんは
イエローパープル
ハアト形のドット
1ビット狂騒曲
横スクロールのLove
ほんとうに Love
フライハイ・ハイウェイで
むねが鳴るままに
なみだ蹴って
高く高く高くね
手をつないでこうね
カセットテープみたいに
はじけちゃうんだ、ぜんぶ
ミントチョコのクマと
マックでまったりして
ミルクティー味の
クローズド・キッスしようね
どうしてもどうしても
どうしても
叶わない恋があって
そこにあって
わたしはいつだって
りんりん、りんと
ころがり落ちていくばかりで
それは
ピンク色の空に
ランダムにそびえるビルの
屋上から
熟れた果実を地面に投げつけるのに似ている
びしょびしょになった手をぺろりと舐める
足先はいつだってワルツを刻む
あたまのさきからポカリスエットを浴びるのに似ている
もしそれが爽やかな春ならきっとこんなにべとべとなんてしていない
どろ、どろどろと溶けて水たまりになって
あげくのはてに
手にしたはずのフリルのスカートまで
お空に飛んでいって
もう二度とつかめなくって
きみの後頭部も見えなくなって
もうなにも見えなくって
しまいには花模様のリップもペンも
ぜんぶぜんぶぜんぶ
お尻から出ていって消える
わたしの恋はいつだってこんなんばっかり。
おもいでどころか
がらすのひとかけらだって
残んないんだから
ちょうの翅
ぴりりと やぶいては
捨てる
あの子の
あわれみに
焼かれて
わたしは
薔薇の
あたまを
もいでみたのだけれど
気品高いかおりが
てのひらに
つよく残っただけで
わたしは
やっぱり
やっぱり
あの子みたいに
やさしくなれないのでした
ちょうちょと
薔薇は
いつまでも
わたしの足の下で
ぽつぽつと
おしゃべりしてるのでした
このへやは
ひろくって
おひさまの
ひかりがあって
ドアはなく
こわれた椅子と
卓だけで
あわいひかりが
すこし、さびしい
椅子には
あなたがいて
モディリアーニの
表情で
そっと手をあわせたり
こごえで ことこと
ことばをかわしたりするのだけど
こころが
つうずることはなく
ただ、ふたっつの生命が
ばらばらに
ひろいへやという宇宙に
星のように
かたく
そこにある、というだけで
まるで
100億年まえの
孤どくを見たようで
おひさまの
ひがりがあって
あたたかくって
つめたくて
このひろいへやは
すこし、さびしい
あいまいハルモニア
洞穴で
双子のひとりと
ソソラシド
ゆたかなアルトは
リボンで結ぶ
さいわいフィロソフィア
空は雨
うわごと ひそひそ
ぺぺらぺら
したたかな嘘は
舌を切りとる
たいがいリテラチュア
もやは晴れ
村ごと チカチカ
友だちを
愉快な冗句で
焼いて埋める
つぎはぎのレクチュア
物語は閉じて
残った双子と
指を切って
死のう。
透明な匣
透明な青
ゼロかイチかも分からないこと
透明なこと
透明な糸
鋭い針が震わす、あの
明瞭な音
冷涼の青
水を切り裂く清冽な光
痛み
波紋
生まれて
さけぶ
食べて
寝て
駆ける
見つける
理解する
ゼロかイチかで
混濁する
さかしくなる
白濁の青
うしなって
また食べる
また生きて
また書いて
ゼロかイチかも分からなくなって
透んでゆく
もういちど
透んでゆく